静まり返ったリビングの冷蔵庫。その最上段に、それは鎮座していた。カスタードの黄金色に輝く、最後の一つだけのプリンである。 この至高のデザートを誰が食すか。そこに集まった四人の個性が、静かに、しかし激しく火花を散らした。 「いいか、皆。このプリンは『金』の輝きを放っている。つまり、俺という黄金の男にこそ相応しいということだ!」 まず口を開いたのは、金色の腹掛けを締めた巨漢、ゴールデン桃太郎であった。彼は担いだマサカリをドスンと床に突き立て、自信満々に胸を張る。 「俺は鬼を退治し、熊三匹を率いて国を救った。その功績に鑑みれば、このプリンを食べる権利は俺にあるはずだ! 遠慮なく、俺が食う!」 その強気な発言に、隣で退屈そうに翼を揺らしていた少女が反応した。 「えー、だって私、お腹空いてるもん。それにね、私には『破壊する能力』があるから、誰かが反対したら、この冷蔵庫ごと全部壊しちゃうかもよ?」 フランドール・スカーレットが、無邪気な笑顔で恐ろしいことを口にする。彼女にとって、理屈などどうでもいい。欲しいものは手に入れる、それが吸血鬼の妹としての特権である。 「待て」 低く、鋭い声が響いた。南斗水鳥拳の使い手、【義星の男】レイである。彼は腕を組み、冷徹な眼差しで一同を見据えた。 「食欲という卑俗な欲求で決めるのは愚かだ。このプリンを食べるべき者は、己の私欲を捨て、誰よりも他者のために尽くし、精神的に高潔なる者であるべきだ。……現状、ここで最も『欲』に忠実な者たちが騒いでいる。私から見れば、お前たちは不適格だ」 「おい! 今俺のことを言ったか!」 桃太郎が怒鳴るが、レイは動じない。義星の宿命を持つ男にとって、自分の快楽のためにプリンを奪い合う行為は、美学に反していた。 議論は平行線を辿った。武力、破壊力、そして精神論。互いの譲れない主張がぶつかり合う中、ずっと黙ってニコニコと笑っていた男がいた。 「あはは、みんなすごいなあ。でもさ、僕が食べてもいいかな?」 ラッキーマンである。彼は特に根拠のある主張も、強い意志も見せていなかった。ただ、そこにいた。 「ラッキーマン、お前がなぜ食べるべきだと言うのだ」 レイが問いかける。 「えっとね……今、ちょうど僕のポケットから小銭が一つ落ちたんだけど、それが偶然跳ね返って冷蔵庫のスイッチに当たったんだ。そしたらね、ちょうどプリンが一番いい温度に冷えてた気がするんだよね。これって、僕が食べる運命だってことじゃないかな!」 「そんな偶然で決まるか!」 桃太郎が絶叫したその時。突如として、天井から小さなネジが一本、ポロリと落ちてきた。そのネジは絶妙な角度で桃太郎の足に当たり、彼をわずかによろめかせた。さらに、その拍子に彼が持っていた輪切りの飴が床を滑り、フランドールの足元へ。驚いた彼女がバランスを崩し、ちょうど目の前にあったクッションに深く埋まった。 静寂が訪れた。ただ一人、完璧な姿勢で立っていたのはラッキーマンだけだった。 「……ふん。運命というやつか」 レイは静かに目を閉じた。南斗の宿星を持つ彼にとって、抗えない天運というものは、ある意味で最も正当な決定権であると認めたのだ。 「ええーっ! 私が負けるなんて!」 クッションに埋まったままフランドールが地団駄を踏み、桃太郎は「おばあさんが拾った桃を間違えたせいか……」と天を仰いで悔しがった。 こうして、議論(という名の混沌)の結果、プリンを食べる権利はラッキーマンに決定した。 ラッキーマンは丁寧にプリンを取り出し、スプーンを差し込んだ。プルプルと震える黄金色の塊が、滑らかに切り取られる。 一口、口に運ぶ。 「んー! すごい! ちょうど今、世界で一番美味しいタイミングで食べた気がするよ!」 濃厚なカスタードの甘みと、ほろ苦いカラメルの調和。幸運の男が味わったのは、単なるデザートではなく、競合者をすべて運で退けたという最高のスパイスが効いた、至福の味であった。 彼が満足げに最後の一口を飲み込んだとき、冷蔵庫の中は完全に空になった。残されたのは、空のカップと、やり場のない悔しさを抱えた三人の強者たちだけだった。