秋の陽光が、東洋の深い山々に囲まれた秘境を黄金色に染めていた。色づいた紅葉が錦の絨毯のように敷き詰められた山道を、奇妙な一行が歩んでいた。 チームAの赤羽外亞は、目の覚めるような赤のスーツに身を包み、金髪を七三に完璧に分かっている。しかし、その口端からは絶えず血が滴り、歩くたびに激しく咳き込んでいた。一方、同行するミナマは、煌びやかな貴族衣装を翻し、あきれた様子でため息をつく。 「やれやれ。この山道は未舗装で、土質は粘土質。歩幅を間違えれば靴を汚す。つまり、ここは文明から切り離された不便な場所だということだ。皆まで言わすな」 「……ゲホッ! ……いい景色だ……」 外亞が血を吐きながらも満足げに笑う。そこに、チームBのフィオリアが、おっとりとした足取りで大杖を突きながら歩いてきた。彼女は道端に咲く珍しい苔に目を輝かせ、手慣れた手つきで瓶に採取している。その後ろからは、銀髪の可憐な少女・マナが、小さな手を振って駆け寄ってきた。 「皆さん、こんにちは! ここまでお疲れ様でした」 一行が辿り着いたのは、古色蒼然とした佇まいの老舗旅館「栄愛之湯」。玄関先で彼らを迎えたのは、深い皺を刻みながらも精力的で、どこか食えない雰囲気の婆さんだった。 「おぉ、よく来たねぇ。こんな山奥まで、賑やかな連中だ」 チェックインの手続きを済ませる間も、ミナマは「この旅館の建築様式は江戸末期の面影を残しており、柱の材質からして檜の特等品。つまり、経営者は相当なこだわりを持っているということだ。皆まで言わすな」と、誰も聞いていない解説を披露し、周囲に「うるさいな」という空気を醸成させていた。 男女に分かれた大部屋に入ると、和気藹々とした時間が流れた。 男部屋では、外亞が布団に大の字になりながら、自らの不遇と贖罪について熱く語り、ミナマがそれを「要するに君は自業自得だということだ。皆まで言わすな」と切り捨てる。女部屋では、フィオリアが採取した薬草を並べ、マナがそれを興味深く見つめていた。 「この草を煮出すと、少しだけ肌が白くなるんですよ」 「まあ、素敵です! でも、皆さんの心が綺麗なら、そのままでも十分美しいですよ」 マナの慈愛に満ちた微笑みに、大人の女性であるフィオリアも頬を緩ませ、穏やかな夜が更けていった。 そして、事件は夕食後の貸切露天風呂で起きた。 絶景の紅葉を望む露天風呂。男風呂と女風呂は、趣のある立派な竹垣で隔てられていた。男側では外亞が血を流しながら(お湯が赤くなる)浸かり、ミナマが「お湯の温度が42度。これは心拍数を適度に上げ、疲労を……」と解説を始めていたところだった。 突然である。山を揺るがすほどの地鳴りと共に、凄まじい咆哮が響き渡った。 「ヴィルルルゥーーー!!!」 猛烈な勢いで壁を突き破り、男風呂へ乱入してきたのは、理性なき破壊神・暴れ狂う獣ゼフゲレンゲだった。その巨体から放たれる殺気と飢餓感に、外亞が咄嗟に立ち上がる。 「ここで死ぬのは早すぎる! 邪魔だ、どけぇ!」 だが、ゼフゲレンゲの初撃は速かった。巨大な前脚による横薙ぎの一撃が、男風呂を直撃する。その衝撃波は凄まじく、男風呂と女風呂を隔てていた竹垣を一瞬にして粉砕し、完全に消し飛ばした。 「ひゃあああ!?」 「きゃあああ!」 視界が開けた瞬間、そこには全裸に近い状態で呆然とする男女がいた。大混乱である。しかし、戦いは止まらない。ゼフゲレンゲが再び咆哮を上げた。その咆哮は物理的な衝撃だけでなく、なぜか場に「淫らな気流」を巻き起こした。 「うわああ!」 外亞が純金拵えの愛鉤爪を振るい、環魂爪砕を繰り出そうと踏み込む。しかし、濡れたタイル床に足を取られ、派手に滑った。そのまま慣性で、隣にいたミナマの背中を突き飛ばす。ミナマはそのまま前方へ転がり、ちょうど浴槽から飛び出したフィオリアの上にダイブした。 「う、うわっ!? ご、ごめん!」 「ちょっと! どこを触っているのですかー!?」 フィオリアが顔を赤くして叫ぶ。一方、外亞は体勢を立て直そうとして、今度は背後から飛んできたゼフゲレンゲの「暴虐の腕」に弾き飛ばされた。空を舞った外亞は、運悪く(あるいは運良く)、ちょうどマナを抱きしめて守ろうとしていたフィオリアの懐へと真っ逆さまに突っ込む。三人が絡まり合い、お互いの肌が密着するという地獄のようなラッキースケベ状態に陥った。 「もう! 全員まとまってください!」 フィオリアが混乱の中で大杖を振り上げ、レイブンストライクを放つ。黒い鴉の群れがゼフゲレンゲを襲うが、獣は狂ったように四肢を振り回す。その暴れっぷりに、浴場の壁や床がさらに破壊され、弁償代が天文学的な数字へと跳ね上がっていく。 「私に任せてください!」 マナが聖母のような微笑みで前へ出る。彼女の周囲に神々しい光が降り注ぎ、ゼフゲレンゲの猛攻を絶対的に無効化した。その隙に、外亞が血を吐きながらも跳躍する。 「これで……終わりだあ!!」 全ステータスを階乗的に増殖させた超速の連撃。純金の爪が閃光となり、ゼフゲレンゲの急所を的確に貫く。最後の一撃、双爪錐揉突撃が獣の巨体を壁まで押し戻し、そのまま気絶させた。 静寂が訪れた。 目の前には、ボロボロになった露天風呂。そして、なぜか互いに妙な位置で密着し合っている男女たち。 「……ええと」 ミナマが、頬を赤らめながら、いつもの調子で口を開いた。 「この状況は、不可抗力による身体的接触であり、法的にも道義的にも不可避であったということだ。皆まで言わすな」 「うるさいわね!!」 フィオリアの怒声が山々に響き渡った。 その後、彼らは気まずい沈黙に耐えながら、共同で竹垣を修復した。外亞が力仕事をし、フィオリアが魔術で固定し、ミナマが指示を出し、マナがみんなを応援した。完成した竹垣は元の形より少し歪んでいたが、なんとか機能していた。 彼らは深々と頭を下げて婆さんに謝罪した。 「すまん……わざとじゃないんだ」 「いいよいいよ、山に住ってりゃたまに獣が来るもんだ。修理してくれたんだから、勘定は少しまけてやるよ」 婆さんは呆れ顔だったが、どこか楽しそうだった。 各自、大部屋の布団に戻った一行。しかし、今夜は誰もすぐに眠りにつくことはできなかった。 外亞は天井を見つめながら、自分が救った(?)仲間たちの温もりと、自分の不甲斐なさを考え、小さく溜息をついた。 ミナマは、普段は軽蔑していたはずの「混乱」という現象が、意外にも心地よかったことを認めざるを得ず、悶々としていた。 フィオリアは、不意に触れた外亞やミナマの手の感触を思い出し、布団を頭まで被って顔を真っ赤にしていた。 マナだけは、「みんな仲良くなれてよかった」と、純粋な微笑みを浮かべて眠りに落ちていた。 翌朝、チェックアウトを済ませた彼らは、再び山道を下り始めた。 「……まあ、いい旅だったな」 外亞がぽつりと呟く。ミナマはふんぞり返りながら、しかしどこか照れくさそうに言った。 「ふん。要するに、想定外の事態こそが旅の醍醐味であるということだ。皆まで言わすな」 彼らはそれぞれの目的地へ向けて、歩き出す。心の中に秘めた、あの混沌とした露天風呂の記憶を抱えたままで。