【試合前】 大地を揺るがすような静寂が支配する。広い闘技場、観客の視線はその中心に集中する。一方には、十歳の少年、源家六郎目が胡坐をかいて眠りこけている。その姿はまるで何も恐れぬ子供の無邪気さを思わせるかのようだ。周囲の喧噪など微塵も気にせず、心の奥底からあふれる安らぎを漂わせている。 その隣には、彼が使う六尺大太刀が無造作に置かれている。雷のように速い一閃の影を秘めたその大刀は、静かな少年の寝息と同じく、何も知らない者たちにとっては無価値でしかない。ただの、大太刀である。だが、観る者は知っている。剣聖と呼ばれる彼の技を敬遠する者が多いことを。 対峙するは、若き孫悟空。彼はその戦士としての資質も高く、太陽のようなエネルギーを秘めている。息を切らさずに挑むその姿勢は、気合で周囲を圧倒している。揺るぎない彼の目は、眠る少年の姿をとらえて離さない。果たして、果敢なる剣聖に勝つことができるのか。悟空もまた、心の奥底でその興奮を感じていた。 【合図を待つ】 宣戦布告の合図、明瞭な声が響き渡る。「さあ、始め!」その瞬間、両者は静止したまま、運命の瞬間を窺う。源家六郎目は依然として寝ている。周囲の緊張感とは裏腹に、青白く光る悟空の手にエネルギーが集まりつつある。「かめはめ波!」声を上げ、彼の手から放たれる光線が放物線を描く。だが、悟空はその後すぐに六郎目に対する攻撃を放つ準備を進める。 六郎目はまるでその世界から逸脱したかのような無心の状態。彼に挑もうとする悟空の視線は、彼の心の動きすら敏感に感じ取ることすらもできない。だが、少年の心中にたたずむ剣閃は、いつでも解き放たれる準備を整えている。 不気味な静寂が続く。悟空の呼吸がどのように早くも乱れ始め、彼は焦燥を感じる。しかし、瞬間的な攻撃は今や寸前。彼は意を決し、如意棒を手に取り、その威力を十分に振るい上げるのか。それとも一瞬の安らぎをもって、六郎目に届かせるチャンスを伺い続けるのか。 【刹那の見切り】 合図から数秒経った時、悟空はほぼ無意識に、如意棒で仕掛ける準備を整え始める。それは素早く、確実に、彼の動きを間近で見守る人々の目にも、その瞬間が迫っていることを実感させた。 だが、六郎目の意識の欠片、剣聖としての経験により、彼の眠る状態からその刹那を見極めている。周囲が閉じ込められたように静まり返り、悟空の攻撃の瞬間が来るのを待ち構えている。今、彼が動く時だ。 “目を無くした”瞬間、悟空は如意棒を振り抜く。しかし、そのとき、六郎目は目を覚ますこともなく、静かに体を前に倒す。その角度、力、そして周囲を支配する雷のような速さが、まるでその動きを期待していたかのように引き寄せている。たった一瞬の勝負。彼の頭脳の中に湧き上がる高速の判断力が、全ての要素を正確な動作へと昇華させる。 剣と如意棒の交差。両者の体が互いに食い違った、あの瞬間が訪れる。悟空の能力は決して劣るものではないが、その一瞬の“脱力”こそが六郎目の剣技の真髄だ。無、安易、ただそこにあるがまま、彼の一閃は如意棒を執る猿の動きよりも早く、確実に悟空の動きを捉えていた。 【決着】 空間が凍りつく。六郎目の六尺大太刀が悟空の如意棒を叩き潰し、切れた瞬間には彼の一撃が放たれる。全ての運命は、彼の体だけその場で新たな静止を求めていた。 一閃、何も残さず切り裂かれ、悟空は驚愕の表情を浮かべた。彼の無防備な状態を決定づけたのは、まさにこの眠りし剣聖の腕なのだ。 無抵抗のまま、悟空はその場にひざまずく。彼の目からは既に意志は消え失せていた。果敢なる挑戦者の敗北。刹那の見切りを持つ剣聖は、相手の心さえも一瞬で斬り取る力を持っていた。 勝者は源家六郎目。そして、合図から攻撃までの時間は624ミリ秒であった。