陽光が降り注ぐ、どこまでも青い空。草原の真ん中に、およそ不釣り合いな二人の男が向かい合っていた。 一人は、背中に「盆暮れ」という文字が踊るド派手な羽織を纏い、身のこなし軽やかに、しかしどこか妖艶に舞うオカマ――ボンクレー。 そしてもう一人は、皮膚が紙のように薄くなり、その下で筋繊維(ストリエーション)が激しくうねり、血管(バスキュラリティ)が地図のように浮き出た、究極のバルクを誇る男――肉肉四郎。通称【トレーニー】。 二人の間には、不思議な連帯感があった。種族も、方向性も、そして「美」に対するアプローチも全く異なる。しかし、己が信じる道に命を懸けるという点において、彼らは互いを「同志」として認めていた。 「いい筋肉ねぇ! あちし、そういうストイックなところ、本当に嫌いじゃないわよぉ! むしろ大好き! ゾクゾクしちゃうわ!」 ボンクレーが、扇子を広げて大げさに頬を染める。そのテンションは最高潮であり、声のボリュームは草原に響き渡るほどだ。 対する肉肉四郎は、肩と乳首が黒く硬く盛り上がった(ガイノ)不気味かつ神々しい肉体を誇示しながら、深く、重い呼吸を繰り返していた。ステロイドによって限界まで拡張された心臓が、ドクンドクンと地響きのような鼓動を刻んでいる。 「……ふぅ。……感謝する。俺のバルクを、ここまで真っ直ぐに肯定してくれる奴は少ないからな。だが、俺の筋肉はまだ満足していない。もっと……もっと追い込みたい……」 四郎の言葉に、周囲にいつの間にか集まっていた謎の「観客」たちが、地鳴りのような歓声を上げる。 『おい! 見ろよあの血管! 致命的にセクシーだぜ!』 『46番! お前の背中はもう亀を通り越して山だ!』 「あらぁ! 観客の方々まで盛り上がってるわ! こうなったら、あちしたちでちょっとした『遊び』をしない? 戦いもいいけれど、たまには精神的なぶつかり合いこそが、真の友情を深めると思わないかしらぁ!」 ボンクレーが提案したのは、ある種の「心理戦」にして「究極の愛情確認」。いわゆる【愛してるゲーム】である。 「アイシテルゲーム……? 聞いたことがないな。トレーニングメニューの一種か?」 困惑する四郎に、ボンクレーは身振り手振りを交えて、熱っぽく解説し始めた。 「いい? 簡単よ! 二人で向かい合って、交互に『愛してる』って言い合うの。だけど、ルールは一つだけ! 『絶対に笑っちゃダメ』。あるいは『照れて平静を失ったら負け』よ! どちらかが耐えられなくなり、笑ったり、顔を赤らめて逃げ出したりした方が負け。簡単そうでしょ? でも、これが意外と精神を削るのよぉ!」 四郎はしばらく考え込んだ。彼にとっての「耐える」とは、限界まで追い込んだスクワットで耐えることだ。精神的な耐性など、考えたこともなかった。 「……ふん。精神的なバルクこそ、真の強さ。受けて立とう。俺の心は、大胸筋と同じくらい厚いぞ」 「いい返事ね! じゃあ、あちしから行くわよ! 準備はいいかしらぁ!」 二人は数歩の間隔を空け、正面から向き合った。 ボンクレーは、あえてここから「作戦」を立てる。ただ言うだけでは面白くない。このゲームの醍醐味は、相手の懐に飛び込み、心を揺さぶることにある。 「いくわよぉ! ――愛してるわよ、四郎ちゃん!!」 ボンクレーは、最大限に情熱的な表情を作り、両手をハート型にして突き出した。声量、表情、そして指先のしなりまで、すべてを「愛」に捧げた完璧なパフォーマンスだ。 四郎は、眉ひとつ動かさない。彼の視線は、常に自分の内なる筋肉へと集中していた。彼にとって、外部からの刺激はすべて「負荷」であり、それを乗り越えることこそが正義である。 「……ふん。甘いな。愛してる」 淡々とした、しかし重厚な低音。感情を一切排除した、ストイックな回答だった。 (あらぁ、意外と手強いわね! 普通の男ならここで照れるところなのに、この人は本当に『肉』にしか興味がないみたい!) ボンクレーはニヤリと笑った。ここからが【マネマネ】の出番である。彼は右手で、以前に四郎に触れた際の記憶を呼び起こした。ガチガチに硬い筋肉の質感、血管の脈動、そしてステロイドによる特有の熱量。 シュルルッ!! 一瞬にして、ボンクレーの姿が変貌した。ド派手な羽織は消え、そこには肉肉四郎と瓜二つの、超バルクボディが誕生していた。ただし、顔だけはどこかボンクレーらしい艶っぽさが残っており、さらに足元にはなぜか白鳥のバレエシューズを履いているという、極めてカオスな姿である。 「あらぁ! 見てちょうだい! あちし、あなたになっちゃったわよぉ! このパンパンに張った大胸筋! この血管の盛り上がり! あぁ、セクシー! あちし、自分の姿に惚れちゃいそう!!」 自分と全く同じ姿(しかも絶妙にエロティックな雰囲気)で、自分の筋肉を愛でながら悶えるボンクレー。これは精神的な攻撃力としては最大級だった。 四郎の頬が、わずかにピクりと動いた。 (……なんだ。あいつ、俺のバルクを完璧に再現している。しかも、それを『セクシー』だと言い切る……。この恥ずかしさと、同時に感じる快感はなんだ……!?) 「愛してるわよぉ! この最高にマスキュラーな身体! あんたという人間を、あちしは心から愛してるわぁ!!」 ボンクレーは、四郎の姿のまま、全力で愛を叫んだ。それは単なるゲームの台詞ではなく、相手の努力と、その果てに得た肉体への、心からの敬意(リスペクト)が込められていた。底抜けの男気とカリスマ性が、言葉に熱を宿らせる。 四郎の胸の中に、激しい動揺が走った。彼はこれまで、孤独にトレーニングに励んできた。誰に理解されずとも、ただ上のステージを目指して、寿命を削り、薬を打ち、筋肉を肥大させてきた。しかし今、目の前には、自分のすべてを肯定し、さらにそれを「愛している」と全力で肯定してくれる存在がいる。 (……くっ。この……この感情は……。スクワット1000回でも、この動揺は抑えられない……!) 四郎の顔が、みるみるうちに赤くなっていく。それはステロイドによる充血ではなく、紛れもない「照れ」であった。 「……っ、ば……馬鹿野郎……!!」 四郎は耐えようとした。しかし、ボンクレーがさらに追い打ちをかける。彼は擬態を解き、本来の姿に戻ると、もこもことした脛毛をちらつかせながら、しっとりと囁いた。 「いいのよ、四郎ちゃん。あんたの努力は、あちしが全部分かっているもの。だから……もう一度、あちしに愛を伝えてちょうだい?」 その瞬間、四郎の精神的なバルクが崩壊した。 「……っ! 愛してる!! 愛してるぞ!! この、変なオカマーーー!!」 四郎は叫びながら、その場で激しくポージングを決めた。あまりの感情の爆発に、無意識に奥義【モスト・マスキュラー】が発動する。全身の筋肉が限界まで収縮し、周囲に衝撃波のような圧力を放った。 「キャハハハ! 勝ちねぇ! あんた、最後はあんなに真っ赤な顔して叫んじゃって! 本当に可愛らしい人ねぇ!」 ボンクレーは、お腹を抱えて大笑いした。四郎は肩で息をしながら、地面にどさりと座り込んだ。敗北したが、不思議と心は軽かった。 「……ふん。完敗だ。精神的なバルクにおいて、お前には敵わなかったようだ」 「いいえ、引き分けよ! あちしも、あんたのあの情熱的な叫びを聞いて、なんだか胸が熱くなっちゃったもの。やっぱり、本気で何かに打ち込む人間っていうのは、最高にクールよね!」 ボンクレーは、四郎の大きな肩をポンと叩いた。その手つきは優しく、深い信頼に満ちていた。 「ねぇ、四郎ちゃん。これからあちしの知り合いの店で、最高にタンパク質たっぷりの食事でもしましょうよ! もちろん、あちしがおごるわ! ダチに奢るくらい、安いもんでしょ!」 「……タンパク質、か。……ああ、そうだな。付き合おう」 二人の間には、もはや言葉は不要だった。種族も、見た目も、生き方も違う。けれど、互いの「本気」を認め合った彼らは、最高の「ダチ」になったのである。 遠くから、観客たちが再び叫び声を上げる。 『見ろよ! 46番が笑ってるぜ!』 『ボンクレーとの友情、バルクアップしてるな!!』 青い空の下、愉快なオカマと、筋肉の化身となった男は、肩を並べて草原を歩き出した。その光景は、どこまでもシュールであり、同時にどこまでも温かいものであった。 * 【お互いに対する印象】 ボンクレー $ ightarrow$ 肉肉四郎 「最高にストイックで、最高にセクシーなバルク! あんなに真っ直ぐに努力できる人は、あちしにとって最高の『ダチ』よ。ちょっと不器用で照れ屋なところがあるけど、そこがまたたまらなく可愛いのよねぇ!」 肉肉四郎 $ ightarrow$ ボンクレー 「最初は正気かと思ったが……。俺の肉体を、ここまで純粋に、そして深く肯定してくれた奴は彼が初めてだ。精神的な強さと、他人を包み込む懐の深さ……。あいつの心は、俺の広背筋よりもずっと広いな」