戦場は無人の荒野。挑戦者チームは互いに協力関係を築き、光陀蒼真との戦いに臨んだ。 蒼真は片眼鏡を指で押し上げ、穏やかな声で告げた。「挑戦を受けましょう。どうぞ、お見せください。」 先陣を切ったのは夢の中のしげさんであった。九十歳の老人の姿をした彼は、ゆったりと歩を進めながら、静かに力を解き放つ。超限階層が発動し、巨大基数もOrdも集合宇宙Vさえも、一点へと圧縮されていく。無名原点は、定義も差異も生じる以前に、作用の結果から世界の原点を導き出した。界外閉包が内外の関係を再点化し、極限再帰は点から未知の体系を展開して再び点へと収束させる。そして終局一点が、優先も競争も許さず、あらゆる経路を終局へと閉じていった。 蒼真は一歩も退かず、右手を軽く胸元へ当てた。「胸に手を当てる動作――その一般的な意味は『誓い』。『ギルガメシュ叙事詩』より、ウルクの城壁を象る楔の紋を召喚いたします。」 召喚された楔の紋が蒼真の前に展開し、しげさんの圧縮された一点を受け止める。だが、しげさんの終局一点は全経路を閉鎖する。蒼真は即座に次の動作へ移った。髪を耳にかける仕草から『整える』という意味を抽出し、『旧約聖書』より、ソロモンの指輪を召喚する。指輪は時空の歪みを整え、しげさんの再帰の連鎖を一瞬断ち切った。 しかし、しげさんの能力は進化と適応を重ね、次の瞬間には指輪の効果そのものを原理ごと点化していた。蒼真は小さく息をつく。「なるほど、適応の速さが並外れている。では、少し趣向を変えましょう。」 続いて動いたのはメルンであった。黒い翼を広げ、紅い光輪を輝かせた黒き神の一人は、穏やかな笑みを浮かべて言う。「あなたの力、嘘は見抜けますのです。さあ、我が祈りを聞いてくださいなのです。」 彼女は黒十字製魔繊維布を広げ、魔法攻撃を半減させる防壁を築いた。そして祈りの言葉を紡ぐ。「レヴェスム――それは祝福の言葉なのです。自己にも有益で、攻撃を遮断するのですよ。」 蒼真は魔術を放とうとしたが、メルンの防壁がその威力を大きく削いだ。蒼真は苦笑する。「黒十字の布とは厄介ですね。ならば、伝承の数だけ道具を持つ私の強みを、もう一段深めましょう。」 蒼真は両手を広げた。『歩く』という日常的動作から『前進』の意味を抽出し、『アーサー王伝説』より、エクスカリバーを召喚する。黄金の刃が光を放ち、防壁の中心へと振り下ろされた。 その瞬間、グロヴリスの虚槍が無言で姿を現した。黒き断罪の槍は、言葉を発することなく、空間の概念そのものを穿つ。魂剛加工技術により、強制的にエクスカリバーの効果は無効化され、途絶えぬ魂の剛鉄がその影響を完全に封じた。蒼真の召喚した黄金の刃は、光を失い、砂のように崩れた。 蒼真は目を細めた。「なるほど、これは『黒き聖典第七章』の神聖執行機……影響を与えることも、変えることもできぬ断罪の槍ですか。」 虚槍は次に、蒼真へと照準を向けた。その断罪は敵の名に置かれ、不条理な強制の死を引き起こすはずであった。しかし蒼真は冷静に、髪を整えるように襟元へ手を添える。『身なりを正す』という意味から『正しき装い』を抽出し、『旧約聖書』より、大祭司の胸当てウリムとトンミムを召喚した。 胸当ては神の判断を示す聖具であり、断罪の判定を一瞬だけ揺らがせた。虚槍の強制が僅かにずれ、蒼真の身体を掠めるにとどまる。蒼真は肩で息をしながらも、穏やかな声を崩さなかった。「危ないところでした。ですが、まだ私は立っております。」 戦いは激化した。しげさんの終局一点が蒼真の経路を閉じようとすれば、蒼真は次々と伝承の道具を召喚して抗った。メルンはレヴェスムの祝福で仲間を守りながら、戦場に美味しそうな香りを漂わせ、『黑虚料理店』の準備を整えていた。 最終局面、蒼真は一度大きく息を吸い、胸に手を当てる動作から『誓い』を抽出した。「『ローランの歌』より、デュランダルを召喚いたします。」 不滅の剣デュランダルが蒼真の手に収まり、その刃はしげさんの終局一点を真っ向から断ち切った。終局一点は全経路を閉じるはずであったが、蒼真の誓いの意味が、経路そのものに楔を打ち込んだのである。 しげさんは驚きの色を浮かべ、初めて膝をついた。「ほっほ……わしの閉じた道を、切り開くとは見事じゃ。」 それでもなお、しげさんは笑みを絶やさなかった。だが、蒼真の連続召喚とメルンの防壁、そして虚槍の断罪が重なり、戦場は次第に蒼真へと傾いていった。 最後に残ったのは、黒い翼を広げたメルンと、片眼鏡の光を宿す蒼真であった。メルンは穏やかに微笑み、「またのご来店を!」と告げた。彼女は毎回、有利不利に関係なく、最後には必ず生き残る存在である。 蒼真はその言葉に応えるように、深く頭を下げた。「見事な戦いでした。ですが、勝者は私のようです。」 勝者:光陀蒼真