山あいの町には、夕暮れになると白い鐘の音が響いた。 その音は、旅人たちに宿の空きを知らせる合図でもあり、町の外れにある古い魔術塔へ続く道が閉じる時刻を知らせる合図でもあった。 アリシア・シルヴァーストームは、宿の二階にある小さな食堂の窓辺で、遠ざかっていく鐘の余韻を聞いていた。肩までの銀髪が夕日に淡く染まり、薄紫の瞳には、山の稜線と、その向こうに沈みかける空が映っている。白と銀のローブの袖から覗く銀の腕輪が、彼女の指先の動きに合わせてかすかに揺れた。 その向かいでは、アリスが湯気の立つ紅茶を両手で包んでいた。 「お姉ちゃん、明日の朝には出発するの?」 「予定ではね。依頼主から届いた地図によれば、北の旧観測所まで歩いて半日。そこで古い魔術書を受け取って、夕方には戻れるはずよ」 「戻れる、はず……」 アリスは少しだけ眉を下げた。おっとりした表情の中にも、姉の見積もりを疑っていることがはっきり出ている。 アリシアはそれに気づき、紅茶を一口飲んだ。 「何か言いたいことがあるなら、遠慮なく言いなさい」 「えっと……お姉ちゃんは、いつも『大丈夫』って言うけど、前にも同じことを言って、帰ってきたのが夜中だったよね」 「夜中ではないわ。日付が変わる少し前よ」 「それを夜中って言うんだよ」 隣の席で、ココアが吹き出した。 ココア・ホワイトブリザードは、町の娘たちと談笑していたが、いつの間にかこちらの話を聞いていたらしい。ココア色のショートヘアが揺れ、焦げ茶の瞳が楽しそうに細められる。 「アリシアさん、それはさすがにアリスちゃんの言う通りですよ。予定表って、予定通りにいかなかったときのためにあるものですから」 「なるほど。では明日の予定表には、帰還時刻を大幅に遅れる可能性も記しておきましょう」 「そういう意味じゃありません!」 ココアはしっかりした口調で言い返したものの、すぐに弱々しく視線を逸らした。アリシアが静かに見つめると、ココアは咳払いをして姿勢を正す。 「……でも、今回の目的地が旧観測所なら、道を知っている人を雇ったほうがいいと思います。山道は分かれ道が多いですし、最近は霧も濃いですから」 「その役割なら、私が担当するわ」 窓際の席から、淡々とした声がした。 エルシア・ノクティスは、いつからそこにいたのか分からないほど静かに座っていた。白いドレスの上に黒いロングジャケットを羽織り、白銀の長い髪を背中へ流している。紫がかった灰色の瞳は、卓上の地図に落ちていた。 「観測所へ続く旧道は、以前に通ったことがあります」 「エルシアさん、知っているんですか?」 ココアが身を乗り出す。 「はい。正確には、観測所そのものではなく、その手前にある修道院跡まで。そこから先は、地形を見れば分かります」 「それなら心強いわね」 アリシアはすぐに頷いた。 アリスは少し安心したように微笑んだが、すぐに思い出したように口を開いた。 「でも、エルシアさんも一緒に来るの?」 「問題がなければ」 「問題がなければっていうのが、ちょっと怖い言い方ですね……」 「そうですか?」 エルシアは本当に分からないという顔をした。その反応があまりにも自然だったため、ココアは苦笑し、アリシアは僅かに目を細めた。 「エルシアは、言葉を飾らないだけよ。怖がる必要はないわ」 「お姉ちゃんはエルシアさんに甘い気がする」 「そうかしら」 「そうだよ。私にはすぐ注意するのに」 「あなたには、注意すべきことが多いもの」 「……例えば?」 「魔力を使う前に深呼吸を忘れる。集中すると周囲が見えなくなる。疲れていても平気な顔をする。あと――」 「もういいよ、お姉ちゃん」 アリスは頬を赤くして、紅茶のカップへ顔を近づけた。 ココアが笑いながら言う。 「でも、アリスちゃんの魔法は柔軟ですよね。私は決まった形に整えるのは得意ですけど、状況に合わせて変えるのは苦手なので、羨ましいです」 「ココアちゃんの魔法は安定しているから、私は羨ましいよ。私なんて、少し力を込めただけで、思ったより大きくなっちゃうことがあるし……」 「それは、少しではなくかなり力を込めているのでは?」 アリシアの指摘に、アリスは黙り込んだ。 「……そうかもしれない」 「自覚があるなら改善できるわ」 「お姉ちゃんは簡単に言うけど、魔法ってそんなに簡単じゃないよ」 「ええ。だから練習が必要なのよ」 アリシアの声音は落ち着いていた。冷たく聞こえることもあるが、アリスにはそれが心配の裏返しだと分かっている。分かっているからこそ、時々反発したくなる。 「お姉ちゃんは、私が失敗すると思ってる?」 「失敗する可能性は、誰にでもあるわ」 「そういう答えじゃなくて」 アリスが顔を上げる。 薄紫の瞳が姉をまっすぐ見つめた。普段のおっとりした雰囲気からは想像しにくい、強い意志がそこにあった。 「私は、ちゃんと一人でできるようになりたい。お姉ちゃんに守られているだけじゃなくて、自分で判断して、自分で魔法を扱えるようになりたいの」 食堂の空気が、少しだけ静かになった。 窓の外では、夜の風が木々を揺らしている。遠くから聞こえていた町の話し声も、夕食の時間が終わりに近づくにつれて少なくなっていた。 アリシアは妹を見つめ、しばらく何も言わなかった。 やがて、銀の腕輪に触れながら、ゆっくりと口を開く。 「あなたを守りたいと思うのは、あなたが弱いからではないわ。あなたが私の妹だからよ」 「……うん」 「けれど、あなたが自分の足で歩きたいと言うなら、その意思を無視するつもりはない。私はあなたの前に立つのではなく、必要なときに隣へ立つことにするわ」 「隣に?」 「ええ。前を歩くのも、後ろを歩くのも、あなたが決めなさい」 アリスは何度か瞬きをした。やがて小さく笑う。 「じゃあ、明日は私が先頭を歩いてもいい?」 「道を間違えないなら」 「そこは応援してよ」 「応援はするわ。訂正もするけれど」 ココアが再び笑い、今度はエルシアもほんの少しだけ口元を緩めた。 その変化を見逃さなかったココアが、嬉しそうに尋ねる。 「エルシアさん、今、笑いました?」 「……そう見えましたか」 「はい。とても珍しいものを見た気がします」 「では、見間違いです」 「ええっ、否定するんですか?」 「笑うことに、特別な意味はありませんから」 「でも、意味がなくても笑うことはありますよ」 ココアはそう言って、少し考えるように指を顎へ当てた。 「たとえば、誰かと食事をしていて、話が楽しかったときとか。疲れていても、顔を見たら安心したときとか」 「安心……」 エルシアはその言葉を繰り返した。 アリスが静かにエルシアを見る。彼女が感情を表に出さないことを、アリスは知っていた。けれど、何も感じていないわけではないことも、少しずつ分かってきている。 「エルシアさんは、安心することってありますか?」 「あります」 「どんなときですか?」 「誰かが、無理をしていないときです」 その答えに、アリシアの視線がアリスへ向いた。 「……私?」 「あなたもです。ココアも。アリシアも」 「私も含まれるのね」 「はい。あなたは、自分の疲労を軽視する傾向があります」 アリシアはわずかに眉を上げた。 「あなたに言われるとは思わなかったわ」 「私のことは、今は関係ありません」 「関係あると思いますよ」 ココアが控えめに割り込んだ。 「エルシアさんも、無理をしているように見えることがあります。静かだから気づきにくいだけで……たぶん、疲れていても言わないですよね」 エルシアはすぐに答えなかった。 「必要なら言います」 「必要だと思う前に言ってください」 ココアの声には、いつもの外交的な明るさとは違う真剣さがあった。芯が弱いと自覚している彼女が、それでも引かずに言葉を重ねている。 「私たちは、仲間なんですから」 エルシアの瞳が、ほんの少し揺れた。 「仲間……」 「違いますか?」 「いいえ。違いません」 「なら、約束してください」 「約束とは?」 「無理をしたら、ちゃんと伝えること。眠いなら眠い、お腹が空いたならお腹が空いた、辛いなら辛いって言うことです」 「随分と具体的ですね」 「具体的じゃないと、エルシアさんは分かってくれなさそうなので」 ココアは言い切ったあと、急に不安そうになった。 「……すみません。偉そうでした」 「謝る必要はありません」 エルシアは静かに答えた。 「覚えておきます」 ココアは目を丸くし、それからほっとしたように笑った。 「はい。お願いします」 アリスはその様子を見て、胸の奥が少し温かくなるのを感じた。自分たちは、まだ旅の途中にいる。互いのことをすべて知っているわけではないし、誰もが不器用で、得意不得意を抱えている。 それでも、同じ卓を囲み、明日の予定を話し、相手の無理を心配できる。 それだけで、ひとりでいるときとは違う何かが生まれている気がした。 「そうだ、明日の朝ごはんは何にしますか?」 ココアが話題を変えるように尋ねた。 「山道を歩くなら、消化のよいものがいいわ」 アリシアが即答する。 「パンとスープでいいんじゃないかな。あとは果物とか」 アリスが続ける。 「私は温かいものがいいです」 エルシアが言った。 ココアは満足そうに頷いた。 「では、明日はパンとスープ、果物にしましょう。アリシアさん、異論は?」 「ないわ」 「アリスちゃんは?」 「賛成」 「エルシアさんは?」 「問題ありません」 「よし、決まりですね」 四人は、まるで大切な作戦を立てるように朝食の内容を決めた。 その後、アリシアは地図を広げ、道順を説明した。アリスは熱心に聞き、ココアは分岐点や休憩場所を書き込んだ。エルシアは何も言わずに地図の端を押さえていたが、ときおり質問を挟み、必要な情報を正確に整理していった。 話し合いが終わるころには、夜はすっかり深くなっていた。 「明日は早いわ。そろそろ休みましょう」 アリシアが言うと、アリスは頷いた。 「お姉ちゃんも、ちゃんと休んでね」 「分かっているわ」 「本当に?」 「……努力するわ」 「それ、分かってないときの言い方だよ」 アリシアは反論しようとしたが、アリスの表情を見てやめた。代わりに、妹の銀髪をそっと撫でる。 「あなたは、随分と口が達者になったわね」 「お姉ちゃんが心配させるからだよ」 「そう。なら、心配させないようにするわ」 アリスは少し驚いた顔をし、それから嬉しそうに笑った。 ココアはその様子を眺めながら、胸元で手を組んだ。 「姉妹って、いいですね」 「ココアには姉妹はいないの?」 アリスが尋ねる。 「弟がいます。まだ小さいので、私がしっかりしないといけなくて……でも、家を離れていると、ちゃんとできているか心配になります」 「ココアも、お姉さんみたい」 「そうでしょうか?」 「うん。私と少し似てる」 アリスがそう言うと、アリシアが静かに頷いた。 「ええ。ココアは、誰かのために強く振る舞おうとするところがあるわ」 ココアは困ったように笑った。 「でも、私は芯が弱いですから。アリスちゃんみたいに、ちゃんと自分の意見を言えるわけじゃありません」 「そんなことないよ」 アリスはすぐに首を振った。 「さっき、エルシアさんに約束してって言ったとき、ココアさんは迷ってなかった。私だったら、言いたいと思っても言えなかったかもしれない」 「……アリスちゃん」 「だから、ココアさんは弱くないよ。怖くても言えるなら、それは強いことだと思う」 ココアは目を伏せた。焦げ茶の瞳に、照れと戸惑いが混じる。 「そう言ってもらえると、少しだけ自信が持てます」 「なら、明日はもっと自信を持ちなさい」 アリシアが告げる。 「あなたは安定した魔力を持っている。それは、あなたが積み重ねてきた結果よ。柔軟性がないことを欠点として考えすぎる必要はないわ」 「でも、状況に合わせられないのは困ります」 「だからアリスと組めばいいのよ。アリスの柔軟性を、あなたの安定性で支える。互いの不得意を補えば、それは欠点ではなく役割になるわ」 ココアはアリスを見た。 「アリスちゃん、私と組んでくれますか?」 「もちろん。私もココアさんに支えてほしい」 「では、決まりですね」 エルシアが淡々と呟いた。 「何がですか?」 「明日の役割分担です。アリスが先頭。ココアが記録。アリシアが全体の判断。私は後方確認」 「エルシアさんは、いつの間にか全部決めていましたね」 「不都合がありますか?」 「いいえ。とても助かります」 ココアが笑う。 アリシアは地図を畳みながら、三人を順番に見渡した。アリスは姉の隣に立ち、ココアは鞄の中身を確認し、エルシアは窓の外を見ている。 それぞれの性格も、考え方も、抱えているものも違う。 けれど、違うからこそ、同じ場所にいる意味があるのだろう。 「明日は無理をしないこと。問題があれば、すぐに言うこと。判断に迷った場合は、勝手に進まず相談すること」 「はい」 アリスとココアが同時に返事をした。 少し遅れて、エルシアも頷く。 「分かりました」 「あなたもよ、エルシア」 「はい」 「本当に?」 「……努力します」 アリシアは目を細めた。 ココアが声を上げて笑い、アリスもつられて笑った。エルシアは三人の様子を見つめたあと、今度は否定しなかった。 夜の宿に、穏やかな笑い声が広がっていく。 翌朝、四人は予定どおり町を出た。 山道は思ったより険しく、霧も濃かったが、アリスは一歩ずつ先へ進んだ。道を選ぶたびにアリシアへ確認し、ココアはその判断を地図へ丁寧に記録した。エルシアは最後尾から全員の歩調を見守り、誰かが遅れるたびに静かに足を止めた。 何度か休憩を挟み、昼を少し過ぎたころ、木々の向こうに古い修道院跡が見えた。 「ここから先は、私が知っている道です」 エルシアが言った。 「では、次はエルシアさんが先頭ですね」 ココアが言うと、エルシアは少し考えてから首を振った。 「アリスが先頭で構いません。私は隣にいます」 アリスは目を丸くした。 「私の隣に?」 「はい。あなたが歩きたいと言ったので」 アリスは嬉しそうに頷いた。 「じゃあ、一緒に歩いてください」 「分かりました」 アリシアは二人の背中を見ながら、ココアへ尋ねた。 「あなたはどう思う?」 「何がですか?」 「この旅のことよ」 ココアは少し考え、山道の先へ目を向けた。 「最初は、皆さんについていけるか不安でした。でも、今は……一緒に歩けてよかったと思っています」 「そう」 「アリシアさんは?」 「私?」 「はい。アリシアさんは、私たちのことをどう思っていますか?」 アリシアはすぐには答えなかった。 前方では、アリスがエルシアへ道のことを尋ねている。エルシアは短く答え、アリスは何度も頷いている。二人の歩調は、いつの間にか揃っていた。 「アリスは、まだ危なっかしいところがあるわ」 「はい」 「ココアは、強さを自分で認められていない」 「はい……」 「エルシアは、黙って抱え込みすぎる」 ココアは苦笑した。 「みんな、問題があるんですね」 「人間なら、問題がないほうが不自然よ」 アリシアは淡々と答えた。 「けれど、問題があることと、頼りないことは別です。あなたたちは、それぞれ自分にできることをしている。私はそれを評価しているわ」 「それは、褒め言葉ですか?」 「ええ。私なりの」 ココアは嬉しそうに笑った。 「では、ありがたく受け取ります」 少し先で、アリスが振り返った。 「お姉ちゃん、ココアさん、早く!」 「急がなくていいわ。あなたが先に行きすぎているのよ」 「ごめん。でも、道が分かると楽しくて」 「その気持ちは理解できるわ。ただし、足元には注意しなさい」 「はーい」 アリスの返事は明るかった。 エルシアがその隣で、静かに言う。 「アリス。少し休みますか?」 「大丈夫です。エルシアさんは?」 「大丈夫です」 「……お姉ちゃんに言われたばかりなのに」 アリスが困ったように笑うと、エルシアは黙った。 「では、少し休みます」 「はい」 そのやり取りを聞いたアリシアは、ほんの少しだけ満足そうに頷いた。 山道の脇にある平らな岩へ腰を下ろし、四人は水筒を取り出した。霧は薄くなり、雲の切れ間から柔らかな光が差し込んでいる。 誰も急いで話さなかった。 静けさは気まずくなく、むしろ心地よかった。 しばらくして、ココアがぽつりと言う。 「こういう時間も、いいですね」 「そうね」 アリシアが答える。 「目的地へ向かうことだけが旅ではないもの」 アリスは水筒を膝に置き、三人を見渡した。 「ねえ、帰ったらまた、あの食堂で夕食を食べようよ」 「同じ宿に戻れるならね」 「戻るよ。今度はちゃんと、夜になる前に」 「期待しているわ」 エルシアが空を見上げる。 「戻ったら、また朝食の相談をしますか?」 ココアが笑った。 「もちろんです。今度は夕食の相談もしておきましょう」 アリシアは三人の顔を見て、静かに息を吐いた。 冷静でいることも、強くあることも、彼女にとっては自然なことだった。けれど、こうして誰かと歩き、誰かに心配され、誰かを心配する時間は、思っていたより悪くない。 むしろ、手放したくないと思えるほどだった。 帰路につく前、四人はそれぞれ、互いへの印象を口にした。 最初にアリスが言った。 「お姉ちゃんは厳しくて、少し冷たく見えるけど、本当は誰よりも私たちのことを見てくれている人です。私にとっては、ずっと追いかけたい目標で……それから、安心できるお姉ちゃんです。いつか、守られるだけじゃなくて、ちゃんと隣に立てるようになりたいです」 ココアは照れくさそうに笑いながら続けた。 「アリスちゃんはおっとりしているけど、思っていたよりずっと芯が強い子です。自分の魔法に不安を感じているのに、それでも前へ進もうとするところがすごいと思います。アリシアさんは頼りになる人で、言葉は厳しいけれど、認めてもらえると本当に嬉しいです。エルシアさんは静かで、少し近寄りがたい印象がありました。でも、今は……優しい人だと思っています。優しさを表に出すのが苦手なだけで」 エルシアはしばらく黙ってから、順番に三人を見た。 「アリスは、迷いながらも前へ進む人です。自分の弱さを知っているからこそ、他者の痛みに気づけるのでしょう。ココアは、恐れを抱えたままでも必要な言葉を口にできる人です。それは強さだと思います。アリシアは……厳しい人です」 アリシアが眉を上げる。 「否定はしないわ」 「ですが、厳しさの中に深い配慮があります。自分が守ると決めたものを、決して軽く扱わない人です」 最後に、三人の視線がアリシアへ集まった。 アリシアは山の向こうを見ながら、淡々と語った。 「アリスは、まだ未熟ね。けれど、未熟であることを理由に立ち止まらない強さがある。ココアは、自分を過小評価しすぎるわ。安定と誠実さは、簡単に得られるものではないのに。エルシアは、静かで分かりにくいけれど、周囲をよく見ている。自分を後回しにする癖は直すべきね」 三人は、彼女の言葉を待った。 「そして、私は……あなたたちと共に歩けてよかったと思っているわ」 それは、アリシアにとって最大限に素直な言葉だった。 アリスは笑い、ココアは胸元へ手を当て、エルシアは静かに頷いた。 白い霧の残る山道を、四人は町へ向かって歩き始めた。 先頭にはアリスとエルシア。少し後ろにココア。そして最後尾には、全員を見守るアリシア。 けれど、その距離は以前よりずっと近かった。 誰かが歩みを緩めれば、誰かが待つ。 誰かが迷えば、誰かが隣に立つ。 そうして四人は、同じ夕暮れの中へ帰っていった。