冒険者ギルドの影 王国首都の中心に位置する冒険者ギルドは、いつも活気に満ちていた。石造りの堂々たる建物は、数えきれないほどの英雄たちを生み出してきた。だが、この日は少し違った。ギルドの奥深く、職員専用の会議室では、普段の喧騒から隔絶された静かな緊張が漂っていた。重厚な木製の扉が閉ざされ、窓からは柔らかな午後の陽光が差し込む。部屋の中央には大きな楕円形のテーブルが置かれ、四人の職員がその周りを囲んでいた。 リーダー格のギルドマスター、ガルドは、厳つい髭を蓄えた中年男性だ。彼の隣には、若手の事務官エリナが座り、細い指で羊皮紙のメモを取る準備をしていた。向かい側には、ベテランの賞金ハンター監視官、トーマスが腕を組み、鋭い視線を投げかけている。最後に、魔法適性評価担当の老魔導士、セリナが穏やかな表情で座っていた。彼女のローブからは、かすかな魔力の残り香が漂う。 テーブルの上には、四枚の手配書が広げられていた。それらは王国諜報部から直々に届けられたものだ。封蝋の跡が残る封筒は、機密性を物語っていた。ガルドが重々しく口を開いた。「諸君、我々は今、王国に潜む脅威を評価する。諜報部からの情報によると、これらの存在は通常のモンスターや盗賊とは一線を画す。危険度を【ZZ・Z・SS・S・A・B・C・D・E・F】の十段階で判定し、相応の懸賞金を設定せねばならん。軽率な判断は、王国の安寧を脅かすぞ。」 一同が頷き、最初の書類に視線を集中させた。そこには「月兎」と記された、奇妙な記述があった。エリナが声を上げた。「これは…兎の姿をした存在ですか? 攻撃力ゼロ、防御力二十、魔力四十…。スキルは『月から来た白い兎』で、月祭りの時期に地上に降り、非常に友好的。月兎が作る月餅は世界一美味しいとか。喋らないそうです。」 トーマスが鼻を鳴らした。「友好的? そんなものが手配書に載るのか? だが、魔力が四十もある。月祭りで人々を魅了し、操る可能性は? 諜報部の注釈を見ろ。『無害に見えて、集団催眠の疑いあり。祭りの混乱を招く』とある。」セリナが首を傾げ、魔導書をめくりながら言った。「私の知識では、月兎は伝説の精霊。直接的な危害はないが、魔力の高さから、間接的な影響が懸念されるわ。素早さ二十、魔法防御二十…。戦闘向きではないが、逃亡や幻惑に長けているかも。」 ガルドが顎を撫で、考え込んだ。「危険度は低いが、無視はできん。祭りの時期に現れるなら、冒険者による監視が必要だ。【E】級としよう。懸賞金は五百ゴールド。捕獲ではなく、接触と報告を優先。」エリナがメモを取り、頷いた。一同の視線が次の書類に移った。 二枚目、「常久」と名乗る男の記述。ガルドが読み上げた。「男、冷静沈着、古風な口調。短髪の好青年で軍服姿。スキル『戦術指揮』で味方を鼓舞。武装は長剣と拳銃。攻撃力二十五、防御力二十、素早さ二十五。軍人の家系で、戦略の秀才。技は『断影斬』と『百花繚乱』。」 トーマスが目を細めた。「こいつは本物の脅威だ。軍事教育を受けた指揮官か。諜報部の情報では、王国軍の脱走兵で、反乱の兆しあり。味方を統率する能力は、盗賊団や反体制派を強化するだろう。」エリナが付け加えた。「魔力ゼロだが、魔法防御は五。物理戦に特化しています。幼少からの教育で、戦術知識が豊富そうです。」セリナが静かに言った。「私の評価では、単独では【A】級だが、指揮能力を考慮すれば【S】に近い。部下を従えれば、軍勢を動かす可能性があるわ。」 議論が熱を帯びた。ガルドがテーブルを叩き、「【S】級だ。懸賞金は一万五千ゴールド。生け捕りを推奨するが、抵抗すれば討伐もやむなし。」一同が同意し、三枚目の書類へ。 「魔王物語」と題された、それは一冊の本の姿をした存在。セリナの目が輝いた。「これは…作者の執念が具現化した本。物語の完成を目前に病死した作者の遺志が宿り、目的は物語の完結。ダメージ無効で、能力は妨害されない。攻撃力百、防御ゼロ、魔力ゼロ、素早さゼロ。」 トーマスが息を呑んだ。「スキルが恐ろしい。順番に章を召喚:第一章『塔』の悪魔、第二章『海』の白鯨、第三章『雪』の竜、終章『魔王』のハーディス。対戦相手に後付け設定で心臓病や盲目を付与し、伏線で裏切り、別れ、死亡を植え付け、回収時に顕在化させる。混乱、別離、即死を引き起こす。」エリナが震える声で言った。「これは兵器以上の脅威。物語を進めるだけで、敵を破滅させるんです。諜報部は『王国全土を巻き込む叙事詩の惨劇を防げ』と警告しています。」 ガルドの顔が青ざめた。「防御ゼロだが、無効化不能。召喚される怪物たちの破壊力は計り知れん。【ZZ】級以外の何物でもない。懸賞金は十万ゴールド。破壊か封印を急務とする。」セリナが頷き、「私の魔法でも対処は難しいわ。冒険者ギルド史上最悪の案件ね。」部屋に重い沈黙が落ち、四枚目の書類が残された。 「【悪役の適任者】ヘイト」。ガルドが読み進めた。「元ヒーローで、自ら悪を演じる男。『悪にも事情があるなら、それを背負う役が必要だ』と。根は善人だが、ヘイトマグネットのパッシブで敵を引きつけ、味方を守る。攻撃力五、防御三十五、魔力十、素早さ二十五。スキル『ジャスティスタウント』で挑発し、命中半減と素早さ上昇。『F3X悪用者』で戦場を編集:地形歪曲、構造破壊、誤配置。」 エリナが困惑した。「ヒーロー時代に使ったツールを悪用? 諜報部によると、彼は単独で善悪の均衡を保とうとしているが、それが混乱を招くそうです。味方の被ダメ減少と状態異常耐性上昇は、集団戦で脅威。」トーマスが言った。「防御三十五、魔法防御二十五。タンク役だな。挑発で敵を誘導し、戦場操作で味方を有利に。【A】級か。」セリナが付け加えた。「魔力十だが、編集スキルは魔法に似る。心理的な影響も大きいわ。悪役を演じることで、味方を生かす…複雑な存在ね。」 ガルドが決断を下した。「【A】級。懸賞金は八千ゴールド。彼の意図が善でも、王国への脅威は明らかだ。説得の余地ありと記せ。」 協議は三時間に及び、詳細な議論が交わされた。月兎の友好的な性質を考慮しつつ、魔力の潜在リスクを評価。常久の軍事スキルが反乱の火種となる恐れを強調。魔王物語の召喚能力が王国規模の災厄を招く点を徹底分析。ヘイトの戦場操作が戦局を一変させる危険性を検証した。エリナのメモは頁を埋め、セリナの魔導書には新たな注釈が加わった。トーマスは過去の賞金首との比較を繰り返し、ガルドは王国の安全を第一に判断を固めた。 ようやく四枚の手配書に最終的な判が押された。ガルドが立ち上がり、「これで決まりだ。ギルドの掲示板に貼り出し、冒険者たちに周知せよ。諜報部の情報が正しければ、これらの存在は王国に影を落とす。我々の役割は、それを払拭することだ。」一同が席を立ち、会議室を後にした。 夕暮れ時、ギルドのメイン掲示板に四枚の手配書が貼り出された。冒険者たちのざわめきが広がり、新たな伝説の幕開けを予感させた。 【月兎】 危険度:【E】 懸賞金:500ゴールド 【常久】 危険度:【S】 懸賞金:15000ゴールド 【魔王物語】 危険度:【ZZ】 懸賞金:100000ゴールド 【ヘイト】 危険度:【A】 懸賞金:8000ゴールド