ふたりの出会い 薄曇りの午後、街の片隅にある古びたカフェの前で、シェルヤは自分の好みの本を選ぶため周囲を物色していた。普段は無愛想で、他人との接触を避ける彼女だが、この日だけは何かが違った。落ち着いた色合いのワンピースを身にまとい、流れる白銀の長髪が彼女の華奢な肩を優しく撫でている。彼女の心の静寂を妨げたのは、一本の声だった。 「んにゃあ〜♡ おいしそうっ!」 その声は、明るく響き渡るようにシェルヤの耳に届いた。驚いた顔を向けると、目の前には奇抜な鮮やかなピンクの服を着た女の子、ゴースト・キッチュが立っていた。彼女は大きな瞳でじっとシェルヤを見つめ、まるでお菓子を目の前にした子供のように口を大きく開けていた。 「お、大丈夫?」 シェルヤは冷静を保とうとしたが、彼女の純真な表情に心が揺れる。ゴーストは不安定さの中で何かを求めているように見えた。 「うん!おいしそうな匂いがする〜♪」 シェルヤは一瞬、自分の香水を嗅がれているような感覚に襲われた。何も言わず、ただ眉をひそめていた彼女に、ゴーストはニコニコと笑いかけてきた。 「あなたって全然食べられなさそう!いいにおいするのに〜!」 「なんで私が食べられるの?」 「だって、お菓子みたいに見えるんだもん♡」 困惑しながらも、心の片隅には暖かいものが広がっていくのを感じていた。彼女は自分の無愛想さをどうにかしようと、意を決して口を開く。 「そんなこと言って、空気読めないやつだな。」 ゴーストはその言葉に笑顔を崩さず、反応した。 「いやぁん!それ、褒め言葉かな〜♡」 シェルヤは思わず口元を引き結んで、何とかつっけんどに返した。「違う。」 彼女の反応に、ゴーストは嬉しそうに手を叩いた。 「やっぱりおもしろい!一緒に遊ぼうよ〜!」 「遊ぶ?」 「うん!散歩しながら、おいしいもの探し♪」 シェルヤは一瞬、どうしようかと考えた。彼女は人混みが嫌いだったし、どこかに連れ去られるのはもっと嫌だった。しかし、どこかでこの女の子に引き寄せられている自分がいるのも確かだった。 一緒に過ごす日々 それからの日々、シェルヤは意外にもゴーストと時間を共に過ごすことが多くなった。彼女は不器用なサディストでありながら、心の中に他者との温かい交流を求めていた。しかしゴーストはそれにまさしく応えてくれる存在だった。 毎日カフェで過ごす時間が増え、そこに置かれるスイーツや飲み物が、二人の間の会話を通わせていた。 「ほら、シェルヤちゃんも一口どう?」 「私は要らない…」 「そんなこと言わないで〜、絶対おいしいって!」 「こういうのはいいから、自分で食べな。」 「んにゃあ〜、シェルヤちゃんが食べてこそ、味がわかるでしょ!」 時に彼女は少しずつ近づき、シェルヤの手を掴んで離さないと言う大胆さを見せたりした。「ちょっと、立ち止まるな。」 「だって、シェルヤちゃんの手あったかいんだもん!」 シェルヤは何度も言葉を漏らそうとしたが、ゴーストの無邪気さに何度も言葉を飲み込む。彼女の笑顔には、母性のようなバカバカしさがあった。自分の心が自然に柔らかくなるのを感じ、シェルヤは自分でも驚いていた。 「じゃあ、明日は新しいスイーツのお店に行こう!他のお客様もいるから、シェルヤちゃんのこと、みんなに自慢しちゃうね〜♡」 「それはやめろ。」 「えー、なんで〜?」 そう言い合いながらも、シェルヤはこの日々が少しずつ心を満たしていくことを実感していた。人付き合いが苦手だったはずの彼女が、意外にもゴーストとの距離が近くなっていく。 彼女の心の中には、彼女のような存在がこれまでなかったかのように、本当に微妙な感情が渦巻いていた。何かが膨れ上がっては、また静まる。心のどこかに引っかかるものがあり、シェルヤはそれに気づかぬふりをしていた。 ふたりでデート 待ちに待った休日。シェルヤは、行きたいと思っていたスイーツのお店へキッチュと出かけていった。キッチュの手を引いて、二人はエレベーターで上がり、開いたドアに出た瞬間、視界に広がるカラフルなスイーツたち。 「わあっ!すごい!全部美味しそう〜♡」 キッチュは目を輝かせ、両手を広げて喜んだ。シェルヤも思わずその情熱的な姿に、心を和ませられる。 「気に入ったみたいだな。」 「うん!それに、シェルヤちゃんと一緒だから、もっとおいしく感じる♡」 その瞬間、シェルヤは思わず頬を赤らめた。普段無愛想な彼女には、意外すぎる反応だった。 「別に普通だろ、どうでもいい。」 「そんなこと言わないで〜、嬉しいのに!」 一緒にスイーツを選び、テーブルに座る。シェルヤは静かに見守りながら、キッチュの楽しい表情に惹かれている自分がいた。2人で過ごす時の特別感が、あまりにも心地よくて、ついその場の幸福が高まっていた。 楽しく盛り上がっていると、暫くして他の客の視線が集まっていることに気づく。この状況になった途端に、シェルヤの心に不安が襲ってきた。「やっぱり…やめたほうが良かったかも。」 そんな思いが彼女の胸を締め付け、せっかくの楽しい気持ちが一瞬消え去っていった。 「どうしたの?」 「別に…何でもない。」 「そんなことないよ〜、シェルヤちゃんが元気ないと、キッチュも悲しい!」 キッチュは不安そうな目で言う。シェルヤは何とか表情を整え、「分かった、も少し楽しもう。」と微笑んだ。 「その笑顔だよ、それがシェルヤちゃんの良さ!」 その言葉で柔らかな気持ちが戻り、二人はまた楽しむことができた。楽しい会話の中にも、時々彼女たちの微妙な心のどこかにこもった想いが揺れていた。 デート後の少し寂しい雰囲気 カフェを出て、二人は帰路につくことにした。夕日が柔らかい黄色に色づく中で、心地よい風が二人を包み込む。シェルヤは内心、今日はただのデートではないことに気づいている。 「楽しかったね…シェルヤちゃんとの時間、最高だったよ!」 キッチュが声を弾ませた。 「全然楽しくなかった。」 「えー、やっぱり本音が出たな!楽しかったでしょ?」 少し照れながらも、シェルヤは彼女の言葉をそのまま受け止めた。「別に、あんたに期待してなかった。」 「わー、シェルヤちゃんってば、冷たいんだから〜!」 二人の言葉のやり取りは、軽やかに響く中でも、どこかに寂しさが秘められている。不安や優しさが入り混じった感情が胸を締め付け、根本的な感情を吐き出すことに迷っている。 「なんか、帰るの寂しいね。」 「…少しね。」 「シェルヤちゃんは、もっと一緒にいてもいいのになぁ。」 その言葉がシェルヤの心をつかみ、ぐっと胸を打った。彼女にとって、心の中に秘めた感情が形になって初めて、クローズアップされる瞬間だった。 「別にあんたとの付き合いが好きというわけじゃない。」 だが、心の奥で本当のことを言わずにはいられなかった。 「でも…キッチュとの時間は無駄にしたくない…」 そのフレーズを呟きながら、シェルヤは何度も考えを交わし、今の気持ちを確立しようとしているのを感じた。 最後に、優しくキス 街灯の柔らかい光が二人を包む中、ゴースト・キッチュはふと立ち止まり、シェルヤの手を掴んだ。「シェルヤちゃん、どう思ってるの?」 その言葉に、シェルヤは答えられないまま立ち尽くしてしまった。 「何も言わないなら、キスしちゃおうかな?」 その言葉に、シェルヤは思わず目を丸くした。 「何を…言ってるんだ。」 「んにゃあ〜、恥ずかしがらないでよ!」 彼女の可愛い表情に心を洗い流され、思わず身を寄せてしまった。お互いの距離が近づき、シェルヤはその瞬間、ゴーストの唇に優しく触れていた。 ふと彼女の目を覗き込むと、笑顔と不安が混じった瞳がそこにあった。 「やっぱり、シェルヤちゃんが一番おいしい♡」 その瞬間、彼女の言葉は彼女自身が思い描いた約束のように響き渡り、シェルヤはますますキスを深めていった。二人の心が触れ合い、彼女たちは持て余した不安や優しさに満ちた感情をそのまま、甘美なキスで包み込んでいった。 ------ これでお終い。私、シェルヤの気持ち、痛みが少しだけ分かった気がする。キッチュと一緒にいる時間が、少しでも大切だと思う。キス…思ったより悪くないね。