鋼球の深淵と津軽の調べ 冷蔵庫の扉が軋む音とともに開き、中からぽつんと佇むプリンのカップが現れた。柔らかなカスタードの輝きが、薄暗い部屋をほのかに照らす。参加者たちは一瞬、息を呑んだ。ギギ・ペリンカ、ルゥエル・ミーガ、ノッタ、そして津花琳心──四人の少年少女たちは、戦場を離れたこの奇妙な休息室で、たった一つのプリンを巡って顔を見合わせた。 「ギギ、かしこい! このプリン、俺が食うべきだぜ!」ギギがまず口火を切った。彼の機体アングラーの鉄球のような瞳が輝き、鋼鎖を模した腕を振り上げて力説する。「手段のためなら目的なんて気にしねえ。戦場じゃいつもそうだ。プリンだって、俺の燃料だ! 敵を欺く餌みたいに、俺が食ってパワーアップすりゃ、みんな守れるぜ!」 ルゥエルはツイゴアブのヘッドギアを軽く叩きながら、静かに首を振った。「いや、ギギ。君はいつも猪突猛進すぎるよ。僕が推薦するのはノッタだ。廃材拾いの僕から見ても、彼のデーモンロアは悪感情で回ってる。被差別民族の少年として、溜まった恨みをこの甘いもので癒す権利がある。遠距離からでも中距離でも、ノッタの感情障壁『ゲド』はみんなを守ってくれるんだ。プリンは、彼の精神ENをチャージするのにぴったりさ。」ガウナのAIが耳元で囁くように、ルゥエルは穏やかに理由を並べ立てた。 ノッタはダーク・クラウドの影のように暗い目で睨みつけた。「ふん、甘い言葉だな。俺が食うべきだ。悪感情触媒の兵器は、敵愾心を燃料にする。こんな平和なプリンを食ったら、俺のブレードが鈍るぜ。だが……お前らみたいな奴らが欲しがるなら、なおさら俺が奪う。取るに足らない者たちの残飯じゃねえ、俺の権利だ!」彼の声には棘があり、周囲の空気が重くなった。感情障壁『ゲド』が微かに揺らぐ気配さえ感じられた。 そこへ、ふわふわの金髪を揺らして琳心が明るく割り込んだ。「へば、したっきゃいぐべし☆ みんな、熱くなってんな~! わいは、相応しい者の条件を言うで。寒い津軽の冬を耐え抜く魂持ってる奴や。プリンみたいな冷たい甘いもんは、氷に強い津軽魂が必要だべ。わいの三味線みたいに、心を溶かすやつにやるべきだよ。ノッタ、悔しい思いばっかしてんだろ? それなら、おぬさんにやるべし! わいは上京しても津軽魂不滅だけろ、みんなの分まで我慢すっから!」彼女のパッチリした瞳が輝き、超濃厚な津軽弁が部屋に響く。風花の撥爪のような軽やかな笑顔で、ノッタを推薦した。 ギギが鉄球を転がすように反論した。「ギギ、かしこい! 琳心の言う条件か……だが俺の鉄球はどんな寒さもぶち壊すぜ! プリンは俺の擬似餌じゃねえ、本物の栄養だ!」ルゥエルは同意の意を表し、「そうだね、ノッタの感情を癒すのは大事。でもギギの手段優先もわかるよ」と中立を保った。ノッタ自身は黙って睨み、内心の葛藤を隠さなかった。「……甘いもんなんか、俺には毒だ。だが、拒否するのも癪だぜ。」 議論は白熱し、ミサイルの雨のように意見が飛び交った。最終的に、琳心の条件──「寒さと悔しさを耐え抜く魂」──がみんなを納得させた。ノッタの被差別的な過去と悪感情の重さが、プリンを癒しの糧とするのに相応しいと結論づけられた。ギギは渋々頷き、「ギギ、かしこい! まあ、ノッタが食うなら次は俺の番だな。」ルゥエルも微笑み、「運命の少年として、賛成だよ。」琳心は手を叩いて喜んだ。「よっしゃ、決まりだべ! ノッタ、食え食え~!」 ノッタはゆっくりとプリンのカップに手を伸ばした。スプーンを握る指先が微かに震え、ダブルブレードを扱うそれとはまるで別物だった。一口、口に運ぶ。カスタードの滑らかな甘さが、敵愾心の渦を静かに溶かしていく。「……ふん、悪くねえ。少し、軽くなった気がするぜ。」感想は短く、だがその瞳にはわずかな柔らかさが宿っていた。 ギギは鉄球を転がして悔しがり、「ちっ、俺の鉄球が欲しがったのに!」と唸った。ルゥエルは穏やかに納得し、「ノッタにぴったりだったね」と頷いた。琳心は明るく笑い、「おいしかったか? 次はわいの三味線で祝うで~!」と手を振った。部屋に、ほのかな甘い余韻が広がった。